JSCTA TOP > SCTとトータルパーソナリティの把握
なぜ今、トータル・パーソナリティに注目しなければならないのでしょうか。それは、これまで人間の資質や能力、性格を測定する基準が一面的で、かつ狭隘だったために、人間関係にさまざまな問題が生じ、社会や組織の活力が変形し、制度疲労を起こしているからです。活力を取り戻すためには、もう一度人間そのものに戻って、トータル・パーソナリティを見つめ直すことが必要です。
パーソナリティは、さまざまな領域と環境や時間をも包括した全体的なものです。したがって、一側面、あるいは一部分だけでパーソナリティを見ることは危険なことで、「木を見て森を見ず」のたとえ通り、人間そのものを無視することにほかなりません。
人間のパーソナリティはとても多面的で重層的です。われわれは多年にわたってパーソナリティの複雑な構造を研究してきました。その過程の説明は別の機会にゆずりますが、最終的にパーソナリティの全体像、すなわちトータル・パーソナリティは、「環境」「身体」「能力」「性格」「指向」という側面から把握されるという結論を得ることができました。したがって、これらの側面を押さえることで、その人のトータル・パーソナリティが把握できるはずです。
下の図をご覧ください。ここにはパーソナリティの全体像が示されています。さらに、われわれが開発した5つのテストが紹介されています。各テストは、上記の各側面のいずれかに焦点を当てて作られており、これらを組み合わせることで、トータル・パーソナリティが捉えられるようになっています。さらに、各テストがねらった側面、浮き上がってくる側面の強弱も示しておきました。
世の中にはさまざまな心理テストがあります。その中には、単純に数値を集計するだけで簡単に診断結果が得られるもの、あまりにもパーソナリティを狭い範囲で捉えているためその人の一面にしか光が当たらないものがたくさんあります。
しかし、人間のパーソナリティはそれほど単純なものではありません。パーソナリティとは、一人の人間を包括する全体的なものですから、それぞれの側面からスポットを当てることができると同時に、その連関性をも考慮に入れることが重要なのです。人間には一人ひとり個性がありますが、何か一つの基準だけで捉え、その全体像を無視してしまっては、人間を尊重したことにはなりません。トータル・パーソナリティを究明し、個性を発見することによって、他人と自分との違いや、社会・組織の中での人間相互の心理的ダイナミックスが見えてくるはずです。
要は、「その人らしさ」をお互いに理解し合い、認めあうことです。そうすれば、人間不信や敵対といった状況から共生への発想も芽生えてくることでしょう。 そのためにも、トータル・パーソナリティを捉えることが大切になってくるのです。
SCTは、1897年、エビングハウス(Ebbinghaus,H) によって知的統合能力を測定する道具として開発されたものと言われている。その後、アメリカで、1920年代よりペイン(Payne,A.F)、テンドラー(Tendler,A.D.)らによって開発が進められた。第二次大戦中からのビージォウ(Bijou,S.W.)、ロッター(Rotter,J.B.)、スタイン(Stein,M.I.)らによるアメリカ戦略事務局関連の業績は顕著で、戦後のサックス(Sacks,J.M.)、フォーラー(Forer,B.R.)らの研究がそれに続いている。
わが国に初めてSCTが紹介されたのは1950年頃のことである。現在、わが国には、われわれが研究している精研式SCTのほか、法務省式文章完成法(MJSCT)、片口安史らによる構成的文章完成法(K−SCT)などがある。
SCTは、(1)パーソナリティの全体像や個々の諸側面、適性などを把握するための道具として、(2)母集団全体の心理・社会的特徴を測定するための道具として、(3)産業・教育等の領域における教育・訓練プログラムの評価技法として、発展してきた。また、われわれは、(4)テストバッテリーや面接結果、人事データ等の妥当性を検証する道具として、(5)面接の展開を容易ならしめるための道具として、(6)筆跡によるパーソナリティ把握のための道具としても使用している。
精研式SCTは、一般的な心理検査がパーソナリティの特定の領域に焦点を当てて作られているのに対し、より幅広いパーソナリティの全体像の把握をめざしている。1990年代に槇田を中心とするグループが新たに提示した「環境・生活史」「身体」「知的能力」「性格・心の安定性」「指向・意欲・興味・関心・態度・人生観・生活態度」といったパーソナリティを構成する諸側面全体を把握できる。
また、精研式SCTはスコアリング(得点化)や数量的分析を重視しない。パーソナリティの把握にあたっては、刺激文に触発されて記された反応文、被検査者の言葉そのものを重視する。しかも、個々の反応文単独ではなく、反応文相互を重層的に重ね合わせながら共感的に了解していくことによって、パーソナリティの全体像を柔らかく再現し、記述する「内容分析・現象学的把握」という手法を用いる。これは、あらかじめ用意された質問項目に返答を求める半構成的面接とほぼ同じ状況を紙上で行っていくことにほかならない。こうした技法は、熟練者の下で訓練を重ねることによって修得可能な方法であるが、このようにして身につけたパーソナリティ把握の能力は、カウンセリングや面接、OJTなど、あらゆる場面で他者を理解する際に役立つものになる。
ただし、精研式SCTでも、実際的な利便性とある程度の客観性を保証するために、8つの「符号評価」を取り入れている。「ener.(エネルギー)」「diff.(mental differentiation:精神的分化度:実際的な頭の良さ)」「type(佐野・槇田の精神医学的性格類型)」「G(顕耀性)」「H(ヒステリー)」「N(神経質)」「secu.(security:心の安定性)」「意欲」である。
※図1に20歳の男性のSCTの一部を、図2にその評価結果の一部を載せる。
パーソナリティは、さまざまな領域と環境や時間をも包括した全体的なものです。したがって、一側面、あるいは一部分だけでパーソナリティを見ることは危険なことで、「木を見て森を見ず」のたとえ通り、人間そのものを無視することにほかなりません。
人間のパーソナリティはとても多面的で重層的です。われわれは多年にわたってパーソナリティの複雑な構造を研究してきました。その過程の説明は別の機会にゆずりますが、最終的にパーソナリティの全体像、すなわちトータル・パーソナリティは、「環境」「身体」「能力」「性格」「指向」という側面から把握されるという結論を得ることができました。したがって、これらの側面を押さえることで、その人のトータル・パーソナリティが把握できるはずです。
下の図をご覧ください。ここにはパーソナリティの全体像が示されています。さらに、われわれが開発した5つのテストが紹介されています。各テストは、上記の各側面のいずれかに焦点を当てて作られており、これらを組み合わせることで、トータル・パーソナリティが捉えられるようになっています。さらに、各テストがねらった側面、浮き上がってくる側面の強弱も示しておきました。
しかし、人間のパーソナリティはそれほど単純なものではありません。パーソナリティとは、一人の人間を包括する全体的なものですから、それぞれの側面からスポットを当てることができると同時に、その連関性をも考慮に入れることが重要なのです。人間には一人ひとり個性がありますが、何か一つの基準だけで捉え、その全体像を無視してしまっては、人間を尊重したことにはなりません。トータル・パーソナリティを究明し、個性を発見することによって、他人と自分との違いや、社会・組織の中での人間相互の心理的ダイナミックスが見えてくるはずです。
要は、「その人らしさ」をお互いに理解し合い、認めあうことです。そうすれば、人間不信や敵対といった状況から共生への発想も芽生えてくることでしょう。 そのためにも、トータル・パーソナリティを捉えることが大切になってくるのです。
SCT(エスシーティー)sentence completion testとは
1.SCTの概要
SCTは、「子供の頃、私は」といった文章の比較的短い書き出し(刺激文)を示し、その後に、思いつくことを自由に記述してもらう(反応文)形式の投影法心理テストである。SCTは、1897年、エビングハウス(Ebbinghaus,H) によって知的統合能力を測定する道具として開発されたものと言われている。その後、アメリカで、1920年代よりペイン(Payne,A.F)、テンドラー(Tendler,A.D.)らによって開発が進められた。第二次大戦中からのビージォウ(Bijou,S.W.)、ロッター(Rotter,J.B.)、スタイン(Stein,M.I.)らによるアメリカ戦略事務局関連の業績は顕著で、戦後のサックス(Sacks,J.M.)、フォーラー(Forer,B.R.)らの研究がそれに続いている。
わが国に初めてSCTが紹介されたのは1950年頃のことである。現在、わが国には、われわれが研究している精研式SCTのほか、法務省式文章完成法(MJSCT)、片口安史らによる構成的文章完成法(K−SCT)などがある。
SCTは、(1)パーソナリティの全体像や個々の諸側面、適性などを把握するための道具として、(2)母集団全体の心理・社会的特徴を測定するための道具として、(3)産業・教育等の領域における教育・訓練プログラムの評価技法として、発展してきた。また、われわれは、(4)テストバッテリーや面接結果、人事データ等の妥当性を検証する道具として、(5)面接の展開を容易ならしめるための道具として、(6)筆跡によるパーソナリティ把握のための道具としても使用している。
2.精研式SCTの概要
精研式SCTは、1960年に、佐野勝男・槇田仁(ともに慶大名誉教授)によって刊行され、成人用、中学生用、小学生用の3種類がある。刺激文は、一人称の短文式で、60項目あり、パーソナリティの全体像を広くカバーするように工夫されている。成人用SCTの適用範囲は、知的発達障害レベルを除く16歳以上である。施行時間は、早い人で30分、遅い人で90分程度を目安に考えればよい。施行は個人でも集団でも可能である。投影法の中では、施行・評価ともに比較的短時間で済ませることのできるテストで、企業、医療、学校、福祉現場など、様々な領域で広く活用されている。精研式SCTは、一般的な心理検査がパーソナリティの特定の領域に焦点を当てて作られているのに対し、より幅広いパーソナリティの全体像の把握をめざしている。1990年代に槇田を中心とするグループが新たに提示した「環境・生活史」「身体」「知的能力」「性格・心の安定性」「指向・意欲・興味・関心・態度・人生観・生活態度」といったパーソナリティを構成する諸側面全体を把握できる。
また、精研式SCTはスコアリング(得点化)や数量的分析を重視しない。パーソナリティの把握にあたっては、刺激文に触発されて記された反応文、被検査者の言葉そのものを重視する。しかも、個々の反応文単独ではなく、反応文相互を重層的に重ね合わせながら共感的に了解していくことによって、パーソナリティの全体像を柔らかく再現し、記述する「内容分析・現象学的把握」という手法を用いる。これは、あらかじめ用意された質問項目に返答を求める半構成的面接とほぼ同じ状況を紙上で行っていくことにほかならない。こうした技法は、熟練者の下で訓練を重ねることによって修得可能な方法であるが、このようにして身につけたパーソナリティ把握の能力は、カウンセリングや面接、OJTなど、あらゆる場面で他者を理解する際に役立つものになる。
ただし、精研式SCTでも、実際的な利便性とある程度の客観性を保証するために、8つの「符号評価」を取り入れている。「ener.(エネルギー)」「diff.(mental differentiation:精神的分化度:実際的な頭の良さ)」「type(佐野・槇田の精神医学的性格類型)」「G(顕耀性)」「H(ヒステリー)」「N(神経質)」「secu.(security:心の安定性)」「意欲」である。
※図1に20歳の男性のSCTの一部を、図2にその評価結果の一部を載せる。
「伊藤隆一 2008 SCT(文章完成法検査);松原達哉・木村周・桐村晋治・平木典子・楡木満生・小澤康司(編),産業カウンセリング辞典,31-33,金子書房」より
図1.精研式SCT(成人用)の一部(『SCTノート(3)』より)
図2.精研式SCT(成人用)の評価結果の一部(『SCTノート(3)』
より)
より)